新しいラマン顕微鏡を次々と世に送り出し、それまで見えなかった世界を見えるようにしているナノフォトン。2017年から取締役技術担当を務める小林実さんは、2006年の入社以来、一貫して製品開発に携わっています。ものづくりに対する思いや、開発の方針についてお聞きしました。(メルマガ編集長・根本毅)

──小林取締役も、創業者の河田聡会長(大阪大学名誉教授)の研究室出身ですね。

研究室に入ったのが、工学部4年だった1999年です。先輩に、当時博士課程3年だった藤田克昌・大阪大教授(メルマガ第4号でインタビュー)がいました。修士課程で取り組んだ第2高調波顕微鏡が、後にナノフォトンの製品第一号となります。製品化にあたり、必要な技術情報を提供したり、光学系の設計について話したりしたのが、ナノフォトンとの関わりの始まり。当時の社長と話すのが結構楽しかったですね。

「見えなかったものが見えるようになる製品を作りたい」と語る小林実取締役技術担当

博士課程の終わりごろから、ラマン顕微鏡に関わっています。当時、研究室にあった装置は1点ずつレーザーを当てて測定するため、時間がかかって見たい情報が取れませんでした。そこで、レーザービームをライン状に引き伸ばして試料に照射するライン照明ならば、同時に多数の点を測定できるのではないかと、藤田先生や博士課程の学生と一緒に製作に取り組みました。考え通りならば、高速にラマン散乱光で画像を作れます。

──アイデア通りにスムーズに進んだのですか?

最初は、点を速く動かして線に見えるようにすればいいのではないかと試しましたが、あまりうまくいきませんでした。この方法だと、サンプルにダメージが残ってしまうんです。サンプルにレーザーを当てると、その部分の温度が上がります。熱の拡散が思っていたより遅く、速くレーザーを振ってもダメージは減らせませんでした。結局、光を線状に伸ばしてサンプルに照射するようにしました。そういう試行錯誤はありました。

──このライン照明を採用し、400点同時に測定するのが、ナノフォトンのRAMANtouchですね。

はい。ナノフォトンで製品化することになり、本格的に詳細な設計の手伝いをするようになりました。その時、世の中にない装置を作って販売する方向に進みたいと思い、入社したいと河田先生に伝えました。2006年の入社です。

──RAMANtouchは世の中にない装置だったわけですね

400点同時に測定するので、400倍の速さでデータが得られます。24時間かかっていた測定が、数分で終わります。これは、速く測定できるということ以上の意味を持ちます。

博士課程の時、ラマン散乱光で細胞を観察したかったのですが、1点ずつ測る装置では時間がかかりすぎて測定条件や細胞の状態が変わってしまいました。時間をかければできるのではなく、実質的に測定できなかったのです。

実際にライン照明の装置を作ってみると、400倍速は不可能が可能になるレベルで世界が変わりました。これだけ性能が向上するのだったら、生物に限らず他にも使い道があるだろうと手応えを感じました。

──そうして発売されたRAMANtouchの評判はいかがでしたか

ある企業は、製品の製造方法を工夫するため応力の分布を知る必要に迫られていました。X線では空間分解能が足りず、RAMANtouchで応力の分布を可視化できました。お客さんに喜んでもらえて、「やっぱりお客さんの問題を解決できるのがうれしい」と感じました。お客さんは装置がほしいのではなくて、抱えている問題をどうにかして解決したいのです。それを手助けできるのが喜びだし、これからも手助けしていきたいと思っています。

──ナノフォトンで研究開発をする原点ですね

そうですね。最初は「装置を作るのが好きで、装置を作っていれば幸せ」という感じでした。今は「問題解決の手がかりが得られればお客さんに喜んでいただける」ということの方が大切ですね。

──今まで関わった製品で、一番気に入っているのは?

実は、広視野ラマンスコープ「RAMANview」です。初めて自分で企画したからなんですけどね。自分の子どもがかわいいのと同じです。

RAMANviewは大きい試料を見る装置です。RAMANtouchなどは顕微鏡の対物レンズを使いますが、見たい物によって適切な見方は異なると思っています。虫眼鏡が適切な場合もあるし、もっと細部を確認したいなら実体顕微鏡を使います。ラマン分光で観察する装置は顕微鏡の他にもあっていいんじゃないかと考え、RAMANviewを企画しました。

──どれくらいのサイズの物を見るのに適しているのですか?

サイズとしては、500円玉ぐらいの大きさの物が見られます。薬の錠剤全体を一度に見られるし、液体窒素に沈めたサンプルをそのまま観察することもできます。岩石の全体を一度に見るという使い方もできます。世の中にない装置を作るというチャレンジをしているところで気に入っています。

──今後、どのような製品を開発したいですか?

今まで見えなかったものが見えるようになり、今まで解決できなかった問題が解決できるようになる。そういう製品を作りたいと思っています。そう考えると、単に高性能だったらいいのではなく、使い勝手の良さも重要です。長時間の調整は不要で、電源を入れたらすぐに使える製品を提供するようにしています。

──使い勝手にこだわっているのですね

そうです。当社は、全て社内で設計しているのが特徴です。お客さんからサンプルを預かってデータを測る人と、ソフトウエアの開発者、ハードウエアの開発者が、近い関係で仕事をしています。さらに、うまく測定できないときには開発者も一緒になって問題を解決しているので、必要な機能をソフトウエアに追加したり、煩雑な操作を簡略化したりするなど、実際に使う人の立場で開発を進められています。それがナノフォトンの強みであり、使い勝手の良さに結びついているのだと思います。

【編集後記】
こちらが質問すると、じっくりと考えてから答えてくださいました。「装置を作るのが好きで、装置を作っていれば幸せだった」という言葉が、小林取締役の人柄を表しています。根っからの技術者なのでしょう。その上、顧客の問題解決を第一に考えています。ナノフォトンのものづくりの神髄を垣間見たと思いました。