第12回会長室から『Genovaの橋』

代表取締役会長 河田 聡

今年最後の海外出張は、北イタリアのジェノバでのラマン顕微鏡の講演でした。ジェノバはイタリアの国立研究所がある町ですが、それよりもアメリカ大陸発見のコロンブスが生まれた町として知られています。ジェノバ港はイタリア最大の貿易港です。地中海に面した崖っぷちの山岩を削って何世紀も掛けてできあがった立体的な街並みは美しく、私の最も好きな街の一つです。歩くには急すぎる坂道や建物の上を通る陸橋やトンネルが複雑に交差し、道路の途中にはエレベーターまであります。しかも、観光客が少ないのがいいですね。

そのジェノバで今年の8月、高さ50メートルのつり橋が崩壊しました。フランスとイタリアをつなぐ高速道路の途中の高架橋で、私がジェノバに来たときにはいつも通る道です。山の中腹のトンネルから出ると、いきなりこの橋からの絶景が現れます。それが突然に崩れ落ちて、数十台の車が落下して43人が亡くなりました。日本でもテレビで大きなニュースになりました。国立研究所の友人によれば、潮風にさらされてコンクリート鋼材の腐食が進んでいたそうです。優れたデザインだけども構造は脆弱だとも言われていたそうです。危険性が指摘されていたのにもかかわらず、イタリアは財政危機で予算が足りず、政権は不安定で、鉄橋の下に住む人たちは補強工事の騒音を嫌い、補強工事が間に合わないままに崩壊してしまいました。その後は政治化してしまって、復旧工事は始まっていません。

橋やビル、トンネル、堤防などに突然に崩壊が起きることは、完璧には防ぎ得ないことです。そのとき大切なことは、トラブルから逃げ出したり責任の押しつけあったり非難の応酬をするのではなく、立場の違う人々が互いに補い合い協力しあって問題を解決することだと思います。

ナノフォトン社は今年になって売上げが急増し、営業も製造もサービスも限界を超える忙しさです。そうなると、売上げ台数の増加に応じて出荷前・出荷時のトラブルも増えます。仮にトラブルが起きたとしても、ナノフォトン社では社員みんなが互いに補い合って協力しあって、問題解決をしていきたいと思います。

ナノフォトンの近くにある大阪・箕面の瀧道が、先日ようやく復旧しました。昨年の秋の台風21号で土砂崩れなどの大きな被害を受け、さらに今年の秋の大地震とその後の台風による被害を受けて1年以上不通でした。滝道から見る渓谷や瀧安寺の堂宇には今も災害の傷跡が深く残されており、災害当時の木々と野生の動物と人々の恐怖を覚えます。

今年一年は、世界中で記録的な災害や多くの紛争がありました。人の知恵とはこんな時にこそ問題解決に向けて発揮されるべきだろうと思います。今年も一年、ナノフォトンをご支援いただきありがとうございました。

2018年12月27日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長 河田 聡

第11回会長室から『ニュートンに消された男』

代表取締役会長 河田 聡

中学の理科の教科書に、「フックの法則」というのが出てきます。バネを引っ張る力とバネの伸びる長さが比例するという法則です。この発見で有名なロバート・フックは、このほかにも、気圧を測定したり真空ポンプを作製しています。しかし彼のもっと重要な力学や光学における貢献を、私たちは学校で学びませんでした。それは遙か昔からのことのようです。フックが考案したり発明した様々な装置はおろか、彼自身の肖像画すらこの世に残っていないというのです。

どうして?

中島秀人さんは、ニュートンがフックを歴史から消したのかもしれないと言います(『ロバートフック:ニュートンに消された男』朝日新聞社、1996)。ニュートンは他人との関係で極めて難しい人であったらしく、年上で有名だったフックには対しては特に攻撃的(お互いですが)であったそうです。ダンブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』(2003)では、ニュートンはフリーメーソンの中心メンバーであり、秘密結社シオン修道会の総長でした。ニュートンは学問にだけ熱中していると想像しがちですが、そのイメージとはまるで違っていたようです。

虫や鉱物や雪の結晶などを顕微鏡で観察して精密にスケッチしたことで有名なフックは、このフックと同一人物です。『ミクログラフィア』(1665年)の著者です。この本の中で、彼は顕微鏡でコルクのハニカム構造の要素を『cell』と呼んでいます。フックは細胞(植物)をcellと名付けた人でもあります。この本では、毛細管現象や気圧の測定や、さらには『引力』の法則についても述べています。フックより7歳年下であったニュートンは、学生の時にこの本を読んで学んだとのことです。そうです、ニュートンよりも先にフックが万有引力を発表しているのです。有名な「ニュートン・リング」についても、『ミクログラフィア』に2枚のガラスの隙間が虹を生み出すことが示されています。光の粒子性をとったニュートンに対して、フックは光は波動であるとの立場でした。白雲母の薄膜の虹などを観察しており、波の干渉効果を理解していたのでしょう。

ニュートンが考案したとされる反射望遠鏡に対して、フックは批判的だったとのことです。彼はガラスレンズからなる屈折望遠鏡の方が反射望遠鏡より優れていると考えていました。反射望遠鏡には色収差と球面収差はないのですが、金属に曇りが生じます。屈折率分散の異なる材料を2種類を使えれば屈折系(透過型)でも色収差は補正できるので、透過型の方が優れているというのです。実際、顕微鏡対物のほとんどすべては多数のレンズ群から成る屈折光学系です。一方、望遠鏡では鏡筒長が短い反射型が多く使われます。

私たち光科学者のバイブルとも言える『光学』をニュートンが出版したのは、ロバート・フックが亡くなった翌年のことです。それまで待ったのでしょうか。メンデルも同世代に活躍したダーウィンの「進化論」の陰に隠れて「遺伝の法則」が評価されることはありませんでした。評価されたのは、本人が亡くなってずっと先のことです(たしか、渡辺政隆『一粒の柿の種』岩波書店、2008)。

さて、ナノフォトン社の話です。このたびナノフォトン社は深紫外・紫外用の顕微鏡対物レンズ「sumilé」を設計製作し、販売を始めました。この対物レンズは深紫外のみならず近赤外まの広い帯域をカバーします。高NAで高い透過率を持つ深紫外対物レンズはこれまで世の中に在していなかったため、お客様に好評です。ただ値段が高くてごめんなさい。そして、この対物は反射対物です。ニュートン式ではなくカセグラン式です。もしフックが生きていたら、ナノフォトンのこの反射対物を褒めてくれたでしょうか?

註:この原稿の元となった中島秀人氏の本『ロバートフック:ニュートンに消された男』は、お薦めです。ダビンチ・コードについては、私自身が2004年6月の今月のメッセージに「ダ・ビンチ」というタイトルで書いています。

2018年9月29日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡

第10回会長室から『鯨に優しいナノフォトン』

代表取締役会長 河田 聡

プラスチックによる環境汚染が世界で大きな問題になっています。海には膨大な量のマイクロ・プラスチックが浮遊しており、生態系を破壊しています。スペインで見つかった鯨は30キログラムものプラスチックのゴミを飲み込んでいました。 タイでは衰弱した鯨から80枚のビニール袋が見つかりました。日本ではミネラルウォーターやお茶だけでなく、醤油瓶もガラス瓶からプラスチックボトルになり、ビールですらアルミ缶からプラスチックボトルに変わりつつあります。日本社会のプラスチック依存症は深刻です。分別するよりも、製造しないこと、使わないことが大切です。先日のG7ではプラスチック汚染対策の「プラスチック憲章」が批准されましたが、日本は署名しませんでした。これまでに60か国以上がビニール袋の廃止や課金を実施しています。スターバックスはプラスチックのストローの廃止を決めました。

どうしてプラスチックはそんなに嫌われているのでしょうか。プラスチックが寿命が長くて、何百年もの間自然には分解されないからです。寿命の長い材料は、優れた材料ではない? 

ガリバー旅行記の中で、日本に来る前にガリバーはラグナグの国を訪れました。そこでガリバーは永遠の寿命を持つ不死人間、Struldbrugを知りました。いくら老いても死ぬことのない人間です。 これは、スイフトによる長老支配社会に対する風刺、痛烈な皮肉です。いまの日本では、年長者のみならず歴史ある会社や歴史ある大学、組織に尊敬が集まります。 一方、世界的には若さが求められます。グーグル社はまだ20歳、アップル社は42歳です。 平均年齢が100歳を超える日本のメーカーと比べて、アメリカの会社は若くて体力も気力もあって、行動が早く決断も早い。中国の会社などはさらにもっともっと若い。 

ナノフォトン社は今年、創業15周年を迎えました。15歳の高校1年生です。若くて元気です。そして、若さゆえちょっと危なっかしい。今年は通常の社員採用に加えて、6月7月に4人の新しい仲間を迎えました。 大阪に二人、東京に一人、そして北京に一人です。ただし、4人の年齢層はばらばらです。社員全員が若いと、大阪の千里ニュータウンや東京の多摩ニュータウンのように、ある時に一斉に老けてしまうからです。 

ナノフォトン社は生きています。生きているからこそ、いつも自らの寿命と新陳代謝を考えます。ハイテク製品の材料も新陳代謝を繰り返し、いつか寿命が来たときには地に返るよう考えます。 「ナノフォトン」のロゴがついたお洒落なクリアファイルは、環境汚染ゴミとなるプラスチックではなく、生分解性材料にしました。本当の先端科学技術は、人と地球に優しいのです。 

2018年7月23日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡

第9回会長室から『電線マン』

代表取締役会長 河田 聡

「日本は美しい」と日本に来た人たちが言います。街にはゴミが落ちてなく、トイレはどこもピカピカで、電車の中も外も駅もきれいで、街を歩く人たちはスーツ姿でかっこいい。

そうなんです。日本はとても美しいんです。頭上さえ見なければ。

映画「ラストサムライ」で、サムライ姿のトム・クルーズと渡辺謙が馬に乗って街中を進むシーン。彼らの頭上に電線が何十本も見えます。道には電柱が建っています。時代設定は戊辰戦争のころですから、まだニューヨークにすら電線や電柱はなかったはずです。それなのにどうして電線と電柱?

これも外国人が見る日本のイメージなんです。その昔、南カリフォルニアに住んでいた私は、国境を越えてメキシコのティファナにときどき遊びに行きました。その度に日本を思い出しました。道路沿いに電柱が並び、頭上に電線が張り巡らされていたからです。街は駐車違反の車だらけ。メキシコは貧しいなあと思ったものでした。

「頭上に電線は要らない」と、これまであちこちに書いてきました[1]。東大先端研の初代所長で工技院融合研の初代所長の大越孝敬先生は30年前から、電柱と電線を無くすべきと訴えておられました[2]。今の都知事さんも都知事選で、電線を地中に埋めると公約されました。

日本の美しさとは、余計なものが一切ない自然美であり素朴さの美だと思います。いろんな装飾品でデコレーションしたものは、日本の美しさとは異なります。だから、電柱と電線に違和感を感じるのです。日本の携帯電話が着メロとかワンセグとか折りたたみ機能とかたくさんのボタンなどいろんな機能を付けて競い合っていたときに、Steve Jobsはそんなものは一切付けずに、テンキーすらないiPhoneを発表しました。最近ではイヤフォン・ジャックも無くして、充電もワイヤレスでできるようになりました。様々な新しい機能を付け加えていくことが技術開発あるなら、それらを取り除いていくことは「イノベーション」「創造的破壊」です。

ナノフォトンの製品のデザイン・コンセプトは「Simplity」による「Sophistication」です。無駄のない洗練さがこだわりです。すべてのパーツを一つの装置に組み込んで、余計なものは付け足さず無駄な空間を一切許さないナノフォトンのデザインは機能美を生みだします。色は白です。業界でダントツの最小・最軽量を誇ります。「IoT」という言葉が生まれる以前にケーブルやボタンを無くして、IoT化+自動化しました[3]。サンプルを装置にセットすれば、あとは家からあるいはバーのカウンターからネットで操作して実験できるのです。

レオナルド・ダビンチは「Simplicity is the Ultimate Sophistication」と言いました。究極の「洗練」とは、余計なものをすべて取り除いた「機能美」です。

これ以上、余計な話は無用です。ホントは電線マンについても語りたかったけど、、、。

2018年5月14日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡

[1]河田聡「桜並木と電線とTransdisciplinarity」学術月報、2000年7月号。
[2]大越孝敬「なぜ日本の街は電柱電線だらけなのか」電子情報通信学会誌、360、90、1993。ほか。
[3]ナノフォトン「顕微鏡、ネットで操作」日刊工業新聞7面記事、2012年9月6日。

第8回会長室から『DPEのD』

代表取締役会長 河田 聡

10年近く前、金属ナノ構造を雪のように複雑で美しい形に結晶成長させてみようと考えました。それができれば、メタマテリアルズと呼ばれる3次元の金属微細構造を大量生産できます。光ファイバーやファイバーカプラーを自己成長させた20年ほど前の私自身の研究がヒントになりました[Shoji and Kawata, Appl Phys Lett. 2000]。銀イオンの入った溶液中で銀のナノ結晶に光を当てると、光の当たったところからフラクタル・ナノ構造が見事に成長しました[Takeyasu, et. al., APL Photonics. 2016; Taguchi, et. al, APEX, 2018]。ナノ微細加工をするためにはフォトリソグラフィーというナノ技術があるのですが、大きなものを作るのは苦手です。そんなハイテクを使わずとも、銀ナノ構造が自分で勝手に大きく成長してくれるなら、ありがたいことです。ナノテクの新しい方向になるかもしれません

銀結晶の成長は写真技術(銀塩写真)の現像過程でも使われます。私が学生・大学院生の頃は、研究室に写真現像用の暗室があり、実験データとして撮った写真を暗室の中で現像するのが日課でした。その当時は街の至る所に写真屋さんがあって、「DPE」という看板が掲げられていました。懐かしき昭和の風物詩です。アメリカでこの看板は見たことがないので、和製英語だったのだろうと思います。「DPE」の「D」はDevelopmentの略です。撮影したときに銀塩フィルムにできる銀微粒子の核(seed)は現像液中で成長し、光のあたった領域が銀によって黒くなります。このメカニズムがdevelopmentです。日本語では「現像」と訳します。小さな核が、成長して大きくなって「像」が「現」れるから「現像」です。素敵な訳です。

Develop と言う言葉が使われる他の例は、developed country(先進国)とundeveloped country(後進国)です。後進国や未開発国は差別用語だという理由で、いまではundevelopedの代わりにdeveloping country(発展途上国)というようになりました。それでも世界の国を二種類に分けるのは差別であって、差別言葉を別の言葉に置き換えるだけというのは偽善に過ぎないのですが、そんな例はいくつもあります。

私の解釈は全く異なります。Developed countryとは、成長し終わってこれ以上の発展しないだろう国のことです。Developing countryはまだまだ発展中、これからも成長する国です。私にとっては、若者もdevelopingです。大人はdevelopedしてしまいこれ以上は成長しません。developingとは素敵な言葉です。語源(ラテン語)はdis+envelop、「包みを開ける」という意味です。

新しい街作りもdevelopmentといいます。都市開発会社はdeveloperです。大企業の研究開発はR&D(Research and Development)です。開発(development)とは、小さなアイデアが成長して発展し、新しい街や製品が「像」として姿を「現」すことです。小さな種から大きな木が成長し、そこに動物たちが生活する森が出現することです。結果が現われるまでには、長い月日と優れたDNAと情熱と、そして幸運が必要です。

弱小新参企業は、まさにdeveloping companyです。Developing companyであるナノフォトンは、まだまだ成長を続ける開発会社です。開発(Development)の次には製品(Printing)にします。しかし、それで留まることなくさらに市場で拡大し貢献して参ります(Enlargement)。写真ではなくCCDを使ってですが、、、。

2018年2月14日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡

第7回会長室から『Google Mapsの正しい使い方』

代表取締役会長 河田 聡

Google Mapによれば、ナノフォトンの大阪にあるR&Dセンターからナノフォトンの東京ショールームまで、今なら所要時間が3時間44分です。ルートは、阪大本部前まで歩いてそこからバスでJR茨木駅。京都まで快速に乗って、新幹線で品川駅下車。品川からは山手線で新橋。そこから10分歩いて、東京ショールームに着きます。時刻表も要らず、ルートに悩む必要もありません。最短時間、最短距離です。

もっとゆっくりと旅がしたいときは、「ゆっくり」と「旅」をGoogleに打ち込むと,たくさんのページがヒットします。このときもGoogleが答えを見つけてくれます。

自由が足りない気がします。私の生きる道筋がGoogleに管理されているかのようです。便利ですが、自らの力で発見や発明を生みだすことができないのです。思考や思案に欠如して、工夫や努力をする力がなくなってしまいそうです。そういえば、最近、漢字もすぐに出てこなくなってきました。暗算も下手になりました。平成と西暦の換算もできません。

私は、Google Mapsに従わずにあえて遠回りしたり、裏通りを歩きます。iPhoneの画面ばかりを見て歩いていると、街並みや人々の表情や季節の変化を見逃します。もっと、気まぐれに街を歩きたいのです。そうしたら、日々新しい発見があります。これまで人通りのなかった路地が混雑していたら、人気のお店がオープンしたのかもしれません。あるいは、何か事件が起きたのかもしれません。雨が降ると、人の流れが変わります。雨に濡れないルートがあるのでしょう。Google Mapsから解放されると、いろんな発見や経験ができます。横道にそれたり遠回りをしましょう。それでも最後には、Google Mapsが目的地へ案内してくれます。安心して経路の選択に失敗しましょう。

これが私の正しいGoogle Mapsの使い方です。

Google ScholarやWeb of Scienceは引用件数の多い順に論文を教えてくれます。それらに従って論文を読んでいたら他の研究者と同じ道を歩いていることになります。あなただけのお気に入りの論文を発見することができません。わざと引用件数の少ない論文を読みましょう。引用件数の少ない論文は、他の人がその論文の魅力に気づいていないからかもしれません。本当に優れた科学者の研究は、一般の科学者にははるか先進的過ぎて、すぐに評価されないことがあります。引用件数やインパクトファクターに頼って雑誌を選んだり論文を選んでいると、画期的な発見のチャンスを逃します。10年、20年経つうちに引用件数が増えて、その論文も著者も有名になるかもしれません。引用件数や雑誌名で最新の論文を読むことは、Google Mapsの指示通りに道を歩くようなことです。

最短距離を教えてもらうのではなく、自分の気の向くまま遠回りをして失敗したり間違えたりして進むことは、「ひと」が生きているということの証です。 

ナノフォトンの経営でも失敗や間違いや遠回りを経験します。でも、そのことが新しい発見や発明を生むのです。失敗や間違いや遠回りは、ひとの成長にとって必要なプロセスなんです。失敗はまさに成功の母です。会社も「ひと」と同じです。生きて成長を続けます。 

2018年1月9日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡

会長室から『新年のご挨拶』

代表取締役会長 河田 聡

今年、ナノフォトン社は創業15年を迎えます。創業の前年、学術界では「Raman microscopy」をタイトルに付けた論文数は世界中でたった44件、引用件数は427件しかありませんでした(Web of Scienceから)。それが昨年には論文数が3倍、引用件数は10倍近くまで増えました。学術界におけるラマン顕微鏡研究のこの急激な成長は、産業界にも確実に伝わっています。創業当時、ラマン顕微鏡の市場は大きくないだろうとか、すぐに飽和するだろうと言われていました。しかし、結果はそうではありませんでした。私たちが世界初のレーザー走査ラマン顕微鏡を発表したのは創業の2年後、1号機が売れたのは4年後でした。通算台数はすでに100台を超えています。創業当時のナノフォトンは、お金も人もノウハウもなくそしてお客さんもいなくて、まさに生まれたばかりの赤ちゃん会社でした。それが、15年の間にたくさんに人たちに支えられて、成長しました。1号機を購入していただいた兵庫県の会社の社長さん、その後の大勢のお客さんたち、製品の作り方を社員に教えてくれた初代社長と研究開発を指導していただいた技術顧問の先生たち、お金を貸していただいた銀行、そして弱小会社に参加してくれた社員たちと取締役の皆さんに、感謝感謝です。15年経ってようやく会社らしくなってきました。製品も毎年着実に成長をしています。会社の成長はひとの成長に似ています。生まれて15年とは、人でいうと義務教育を終えて高校生です。まだまだ若造ですが、ナノフォトンはさらなる成長と貢献を目指します。今年もより一層のご支援をお願い申し上げます。

2018年1月1日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長 河田 聡

第6回会長室から『切腹』

代表取締役会長 河田 聡

司馬遼太郎の「龍馬がゆく」を読んで苛々するのは、皆がやたら切腹することです。迫り来る敵に勝てそうにないとなると、敵に殺される前に自ら命を絶ちます。敵に辱められて惨めに殺されるよりは自ら美しく散るべき、というのが日本人の「美学」です。命乞いも争いもせずに自害します。欧米人は「切腹」しません。簡単に諦めることはなく、最後の最後まで粘り強く交渉し激しく争い、殺されるか傷ついても生き残るかを選ぶと思います。

最近の大相撲の話です。

暴力事件を起こした横綱が、協会や親方衆と交渉することもなく争うこともせず、自ら引退届けを出しました。出場停止とか減給とか降格とかではなく、相撲人生の全てを諦めたのです。相撲界からの引退は、お相撲さんにとって切腹です。横綱としての「品格」なのだそうです。こんな風にして、日本の国は戦争で多くの若者や沖縄の人たちを死に追いやったのだなあ、と悲しい気分になりました。司馬遼太郎が、「この国の心とかたち」で日本人について言いたかったことです。

政治家の場合でも、政治と関係ない個人的醜聞や小さな疑惑を理由に、議員辞職を求められます。自殺者も絶えません。そして、学術の世界も似たようなものです。研究不正や予算執行の不正の「疑い」をもたれた人は、公開の場や裁判で争うことなく辞職を求められます。そして科学者としての生命が奪われます。まさに切腹です。「品格」とか「潔さ」「けじめ」を求めることは権威や多数にとっては心地がいいものですが、問答無用の全体主義です。科学や技術は、このような全体主義とは相反するものです。多数に支持される常識を否定することによって、進化します。最近の日本は、その反論がやりにくくなっているような気がします。

日本社会は、失敗やミスを犯した人に対して寛容でありません。将来のある相撲取りや研究者や政治家を、失敗やミスを理由にその社会から抹殺します。裁判で争う人はほとんどいません。欧米の方がむしろ、同程度のスキャンダルやミスに対して寛容な気がします。

ナノフォトン社でも、小さな失敗や小さなトラブルが常に起こります。それらの問題に対峙して解決するのではなく、面倒だからと無理も道理で譲ってしまいがちにもなります。しかしリスク回避ばかりではベンチャーらしくないし、ベンチャー企業として生き残れません。相撲界という日本社会の縮図を見ていて、日本社会の寛容性とベンチャー企業のリスク管理について考えさせられました。

大陸間弾道ミサイルが発射された当日、相撲界のもめごとがミサイル発射のニュースを隅に追いやってしまいました。品格や義理、けじめも大切ですが、ナノフォトン社は世にない新製品の開発と製造・販売・サービスという「本業」をまず優先したいと思いました。

2017年12月1日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長 河田 聡

第5回会長室から『ネーミング』

代表取締役会長 河田 聡

社名である「ナノフォトン」という名前は、知人に譲ってもらいました。フォトンでナノを観察する顕微鏡の会社を表すのにぴったりの名称だと思っています。このネーミングは、他社と比べて実はちょっと自慢なんです。会社のネーミングは大切です。

社名にはそれぞれ創業の思いとその後の歴史が刻まれます。個人商店から始まった会社は、創業者の名字と、その後に商売の内容が付きます。上田酒店とか山口薬局みたいなもので、かつての松下電器産業とか豊田自動織機やEdison General Electric、いまでも武田薬品工業、竹中工務店、Ford Motorなどがそうです。会社が有名になると名前は短くなります。東京通信工業は「ソニー」、日本光学工業は「ニコン」、津村順天堂は「ツムラ」になりました。Apple Computerも2007年に「Apple」になりました。コンピュータという業種名を外した方がより自由になれます。International Business Machinesはいまでは通称の「IBM」の方がよく知られています。Bayerische Motoren Werkeは「BMW」、Minnesota Mining and Manufacturingは「3M」が正式名称です。簡単な方が言いやすいし憶えやすいのですが、何を扱う会社なのかわかりにくいという問題もあります。たとえば野球チームの「DeNA」が何を意味して何を売っているのか私はよく知りません。若い人には総合商社の「双日」の意味や業務を知らない人もいるかもしれません。

日本には長い名前の会社があります。複数の会社が合併してそれらの名前を連ねただけのネーミングは特に銀行系に多いように思います。合併前のどの会社とも無関係な名称が選ばれていることもあります。ひらがなにしたり辞書にないことばです。市町村名は由緒ある名前がよいと思いますが、それらが合併した後にはひらがなや歴史感のない名前が選ばれます。

ネーミングとは難しいものです。

話題の「希望の党」の名称は過去よりも未来志向をイメージさせ、立ち上げた人たちの思いを示すいいネーミングだったと思います。一方、排除された人たちの集まりの党名はイデオロギー的ことばが二つ並び、古いイメージです。ソビエト連合の崩壊すら四半世紀以前のことですから、政党の未来はもはや右か左かのイデオロギーよりも、大きな政府か小さな政府か、既得権益か新規参入か、規制強化・ローリスクか規制緩和・ハイリスクか、などの選択と決断だと思います。ナノフォトン社はもちろん、小さな会社、新規参入、ハイリスクを選択しました。この選択の決断でもって、新しい科学である「ナノフォトニクス」をビジネス化し、顕微鏡の未来を切り拓きたいと思っています。

2017年11月20日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長 河田 聡

第4回会長室から『誰が料理したのか分かる料理を食べたい』

代表取締役会長 河田 聡

今、新製品を開発しています。誰も思いつかない画期的製品です。見ただけで使ってみただけで、たとえロゴがなくてもナノフォトンの製品だと分かる個性ある製品です。ナノフォトンのような小さな会社は、大きな会社にはない個性があります。何でも揃うデパートやスーパーよりも、新参のユニクロやニトリなどの特定の分野に特化した専門店が成功しています。ナノフォトンも「ラマン顕微鏡」だけに特化した専門店です。大学発のナノフォトン社はもともと光学・分光学・ナノテクノロジーの科学者集団です。大学ではホログラフィーや光メモリ、光ナノ加工装置、ナノ光駆動法などおよそナノフォトニクスに関わることなら何でも取り組んできました。顕微鏡・分光器の世界でもラマン分光に限らず、中赤外・近赤外分光、蛍光分光、近接場光学、非線形光学、AFMなどを基礎として様々な装置や原理を開拓してきました。しかしナノフォトン社は、ラマン顕微鏡だけを作ります。世界で最初の、そして今でも世界で唯一のレーザー走査ラマン顕微鏡メーカーです。小さくても世界初、世界唯一です。

このような専業ビジネスが、最近は二極化しています。巨大なチェーン店と小さなお店の二極化です。日本中に展開する回転寿司チェーン店に対して、頑固親父が握る鮨屋が頑張ります。全国ネットの安価な讃岐うどんチェーン店に対して、長く地元の人たちに慕われてきた小さな手打ちうどん屋さんが頑張っています。小さくて古くて有名でないお店は経営は厳しいものの、大型チェーン店よりも新鮮な食材で心のこもったこだわりのにぎり寿司や手打ちうどんを提供します。こだわりが故に量産のお店よりも値段が高くて、そのために過当競争に負けてしまう老舗もあります。しかし、私はこんなこだわりのお店こそがこれからの社会に必要だと思っています。

街中がマクドナルドばかりでは退屈なんです。幸い、最近こだわりのバーガー店やサードウエーブのコーヒー店も増えてきました。安価で品質の揃ったユニクロだけではなく、高価なルイヴィトンの製品もたまには買いたいのです。安くて壊れなくて高性能なトヨタではなく、たとえ燃費が悪くて値段が高くてもこだわりのBMWに乗りたいのです。洗濯機も冷蔵庫も炊飯器も作る会社のスピーカーよりも、スピーカーしか作らないBOSEのスピーカーが欲しいのです。

分析機器の世界では今、欧米の大きな会社が中小の分析機器メーカーを次々と買収します。こだわりを持って製品を開発してきた小さな会社の名前が消えて、設計してきた人たちの思いが製品から見えなくなってしまうのは残念なことです。ナノフォトンの製品は設計者、開発者、製造者、そのほか品質管理やアプリ担当の人たちの顔が見える小さな会社です。私はナノフォトンの製品は単なる機械ではなく、開発者たちが生み出した個性ある生き物だと思っています。デフレ時代の今、人は量販店で同じ商品を買い求めて自らの個性すら失いつつあるような気がします。地元の人たちに愛され続けたお店がどんどん店じまいをして、チェーン店に置き換わるのを見るのは寂しいものです。他人のネットランキングなど相手にせずに、私だけのお気に入りのお店を探しませんか。皆と同じ映画や同じ小説を読むのではなく、自分だけのお気に入りを探しませんか。

ナノフォトンは値段はちょっと高いけれど知名度は足りないけれど、こだわり満載のホンモノの製品を作っています。長く愛するなら、こだわりのナノフォトンのラマン顕微鏡がお勧めです。

2017年11月1日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長 河田 聡